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1-15


 四人の旅人だった。
 半年前に閉じて以来開けていなかった、南の国への門を開き、彼らは行った。
 ジュスは、紅い霧の晴れたこの場所で佇む。
 谷間のこの町で風さえ吹かないのが、普段ならきっと気になるだろう。

「ヒース」反応はない、しかし背後に彼は立っている。「ずいぶん苛立っていたのね」
 ちょっと間があった。拗ねたような声が小さく弁明する。
「……俺を、憐れむように見る。見透かしたような目だ……かっとした」
「でも良くないんじゃない? 暴力は」
 揶揄するような、咎めるところのない言い方が、彼女の本心を表していた。
 あの少年の紅い瞳。本質を捉えようと貪欲で無遠慮で、業突く張りだ。あれに苛立つというのはわからなくはなかった。世の理を手中にしようなんて馬鹿げているとこちらが諦めているものに、容赦なく手をかけようとする。追い求める。
 いっそ明け透けなその輝き、鮮やかさに比べてしまえば――

「結局どうにもならないんだわ……晴れたところで、こんな」

 今のこの町は、澄んで見える。靄にかすむこともない。
 しかしただそれだけだった。それで何が変わることもないのだ。
 思わず目を眇めるような眩しさを湛えていたのは、今のこの町ではなく、この町の紅い空気を打ち払ったあの旅人だ。
 ヒースがいつの間にか右隣に立っていた。
 睨むように南の国を見る瞳は、今頃砂漠に立っているであろう旅人を見据えているように見える。
「やつらはこの町さえ何も変えていない、あんな砂漠に行って何をするというんだ」
「私が知るわけないでしょ」
「のこのこと戻ってきたら……蹴るくらいでは足りない」

 ――質問があるんだ。きみの、その目は――。
 少年から聞いた言葉はたったそれだけだ。ただ、許しがたい言葉だった。蹴っただけで耐えた自分は冷静な方だったとさえ思う。
 どうか二度と戻ってくるな、死にたくないのならば。ヒースはそう思った。

「あなた、目が紅いわ」
 ジュスが言う。ヒースはっとして彼女の方を振り向く。無意識に、左目を手で押さえて。
「……そっちじゃないわ。髪に隠れてるんだから見えてるわけないでしょう……右目よ」
 ヒースは驚いて、右目に手を近づけた。そんなことをして、見えるわけでもない。
 体の向きを戻して、目がそれた。
 表情が見えなくなったジュスが、隣に立っていてさえほとんど聞こえない大きさで呟く。

「泣きたいほどつらかった、ね」



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