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2-1


 霞むような視界は、されど開けている。
 足元から広がり、視界を覆い尽くすのは変化のない砂だけの大地だ。町を出た頃は背の低い草を見ていたというのに、いつのまにか踏みしめようのないさらさらと風に弄られるだけの砂にとって代わっていた。
 一面の黄色っぽい景色に、ここは砂漠なのだと、異国の地なのだと、ふと実感する。

 四人はパニティレイムにいた。
 景色だけではなく、風の音さえあまり変化のない世界をセラヴィスが先導し、とぼとぼと歩く。

 不意にティーフェンが顔を上げ、遠くを見つめると呟いた。
「あれは……砂嵐?」
 見やった彼方の地平線はかき消えていて、ぼんやりとした土色の巨大な塊が、明確な形も持たずに存在している。
セラヴィスが小さくうなずいて言った。
「遠いから大丈夫」
「……すごいところね……」
 ティーフェンは感嘆とも驚愕ともつかない、ないまぜになった声色で返した。それに対してセラヴィスは小さく言う。
「ひとの住んでいるところには起こらないわ……今は」
「それにしたって、歩きにくくてたまらないな」
 グランは正直辟易していた。どうにも歩き方がわからない。一歩踏み出すたびに、砂に足をとられそうだった。無限に沈んでゆくわけではないとわかっていても、無性に落ち着かない。セラヴィスが慣れた足取りで歩み寄って、グランに道を指し示した。
「オアシスが見える?」
 指先をたどっても、茫洋とする景色の中は単調で、ぴんと来ない。グランは首を横に振る。
「見えない……が、あるのか」
 魔導師は視界の端で、ほんの少し微笑んだ。――どこか寂しそうに見えた。
 視線を向けると、いつも通りの無表情が覗くだけである。国境を越えたゆえに、目と頭の妙な飾りは無くなっていたけれど。
 脳裏をかすめたうら寂しい感じは、気のせいだろうか。きっとそうだ、だけど。
「セラヴィス?」
 思うより先に言葉になっていた。セラヴィスはそっとかぶりを振る。その動作はまるでティーフェンのよう。無表情なセラヴィスにしては敏感で繊細で、怯懦にさえ思える。
「オアシスまで行けば、着いたも同じだから」
 どうやら、視線さえ合わないけれど、激励の言葉だったようだ。グランは頷いた。

 後に思えば。
 あのときの笑みは、何に対してだったのかわからないが――憫笑だったのかもしれない。



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