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2-11


 あの人はどうせ自分では何も言わないでしょうけど、とリタリダは言葉を足した。
「治療って! どこか悪いの?」
「目の治療です」
 リタリダは、焦るレカードを宥めるように言葉を継いでいく。
「あの人は魔道において考えられないくらいの才能を持っているんです。自分の目から魔力を奪うことで一時的に失明させ、飾りの効果から抜け出すなんてことをやってのけるくらいに」
「目から魔力を奪う?」グランは、復唱するしか出来なかった。リタリダが肩をすくめる。
「全くどうやったのか、私にはさっぱりです。そのくらいセラヴィスは魔力に愛されているんです。この魔力の先細った時代に、信じられないくらいの力を持っているの」
「魔力の先細った時代、というのは……」
 ティーフェンが尋ねると、リタリダは目を少し伏せた。
「私たちが捉え、扱える力は徐々に減ってきています。今ほとんどの魔導師は、決まりきったことしか出来ない」姉を想起しているであろう瞳の、視線の先はあいまいだった。
「でもセラヴィスは、思ったことを自在に出来てしまう。例えば……」
 視線が一点に定まる。
「魔啓の塔の、少し先で。昔、火柱が立ったことがありました」
「ひ、火柱? って……なに?」
 レカードがうろたえた。
「言葉通りです、火の柱。この砂漠である日突然、火が上がったんですよ」
 視線の先はおそらくその方向なのだろうとグランが目を向ける。されど当然、砂と岩が見えるばかりだ。塔の姿さえ見えていない。想像さえまともに出来ない火の紅を、それでも頭に浮かべる。
「セラヴィスはそれを鎮めたんですよ、ただ見つめ続けただけで」

 熱風吹きすさぶ砂漠で、砂除けの風さえ纏わぬ少女がふらり立つ。
 銀の髪が、無情な風に煽られていた。
 平素は緑の光が煌めいている青い目にも、紅い景色の色が映るばかり。
 少女は、じっと見つめる。炎の紅に呑まれそうなその瞳の内側に、空よりも広い世界を宿していた。
 そして――

「あの人は半分、魔力そのものみたいなものです」
 瞳の内側に火柱さえ封じ込めてしまったかのように見えた、在りし日の姉の姿を思い出す。
「細工で封じられるようなものじゃない。でも、あなたの国を欺く行為でしたね」
「……そんな」
 リタリダの視線に、ティーフェンが一瞬窮してから首を横に振る。
「でも、そうまでしてセラヴィスはロヴェグに……レカードを求めて」
「姉自身は別としても、魔力は失われつつあるということです」
「あのさ」レカードが口を挟む。「それがわかってるのに読むの? その、魔啓って。王様は、魔道の行く末が書いてあるって言ってた」
「そうですね」リタリダの返事は肯定という訳でもないように聞こえた。「正直私にもわからないわ。レイデスやセラヴィスは、特別すぎて」呆れとも悲しみとも、笑みともとれる奇妙な表情を浮かべてそう言った。
「とにかく……そんな姉ですけど、失った視力を回復するために今頃、それなりに苦労しているでしょう。そもそも魔法を使うのに一切の学びが必要なかったから、魔啓どころか杖の魔法陣さえ読めない人でもありますけど。それに……」
 セラヴィスが来なかった理由は色々とあったということか、とグランが話に追いついた時。
 リタリダは更に奇妙な表情になった。
「せめてあの二人、一緒にいさせてあげたいの」
 悲しみでも笑みでもない表情に、グランはやはり話がわからなくなり、同時に出立前のセラヴィスを思い出す。

***

 剣の手入れを終えた頃、セラヴィスは唐突に現れ、グランに言った。
「グラン。みんなを頼むわ」
 いきなり現れたことにもその言葉にも驚いて、答えに困った。
 返答を探り、「怖いこと言わないでくれ」という言葉が浮かんだが言い止す。いつも通りの感情を表すのが下手なセラヴィスの声が、どことなく痛切に感じられたのだった。代わりの言葉を探した。
「あんたは大丈夫なのか。最近のあんたは変だと、レカードも言っていたぞ」
 セラヴィスから答えを引き出すなんて、出来ようはずがないとは思っていた。だが返事は更に予想外のものであった。
「グラン。……リタリダを守って」
「! おい、ちょっと」
 そう言って一瞬表情を変えた後、セラヴィスは去った。
 その一瞬の表情がまさに、リタリダの浮かべた奇妙な表情に似ていたのだ。



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