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6.ピース


「あんたねえ……なんでそうなるのよ」
 アミーが心底呆れたように言った。ラテュセは、何のことかわからずにきょとんと目を丸くする。
「怒ってるの?」
「別にこんなことで怒んないわよ、ばか!」
 とはいえそのとげとげした声色は、明らかに彼女が機嫌を損ねていることを示していた。ラテュセはやはりきょとんとする以外にどうしようもない。
 思わず手を見やる。薬指と小指を折って、親指をそれにくっつける。アミーが言った通りに出来ていると思う。もちろんアミーのようにきれいな形はしていないのだろうけど。アミーは体中どこもかしこもきらきら輝いて見えるような子なのだ。彼女がいろいろと危ない手段を用いることをやめないから、実はあざとか傷を作っていることも多いと知っているけれど、それでもラテュセにとってアミーは、いつだって何をしていたって、うっとりと見とれてしまうほどにすてきに見えた。
「あのねえ。銃を持ちながらするようなのじゃないわよ、それ」
「……そうなの?」
 アミーはため息をつきながらうなずく。
「その形は良い意味で使うの! もう、ラテュはほんとにわかってない!」
 それ貸して! と、アミーはラテュセの手から小さな銃を取る。黒い艶消しの銃身に描かれた剣のモチーフが一瞬、不自然にきらりと光ったように見えた。
「危ないよ、アミー」
「こんなもの……」
 ラテュセが言うが、まるで聞こえていないかのようにアミーはその銃をじっと見つめる。低い声が憎々しげに漏れる。
 かつて大切なものを目の前で奪っていた圧倒的な暴力。アミーは思わず目を瞑った。

 空を切り裂くようなたった一度の音の後に残ったのは硝煙の香りと、亡骸となった愛しいもの。音もなく去っていく背中のマントには、ひっそりと銀色の剣の紋章が見えた。
 銀の紋章の入った黒い力、それは組織の子供たちが使う独特の武器だ。
 組織や力を憎む気持ちはいつになっても薄れない。――だというのに、なぜその組織の人形と一緒にいるのだろう。それを考えようとするとアミーはいつも頭がうまく働くなる。
 頭にたまる形の知れないものをすべて吐き出したい気持ちで、息をつく。

「こんなの、どんな理由があっても悪いものだわ」
 たとえそれを、大切なものを守るために使っても。大切なものを貶めようとする存在を排除するために使っても。誰が許しても、誰ひとり咎めなくても、それでもこんな力は、ただただ恐ろしく、あまりに強大で強引だ。力がいつ一人歩きするともわからないのだ。ラテュセでさえ、たまには失敗するというのだから。
「アミー? でもそれは大事だよ」
 ラテュセには、なぜ先ほどまで怒っていたアミーが悲しそうに顔を伏せるのかがわからない。アミーはそっとラテュセの手に返す。ラテュセは銃の状態が安全であることを確認してから、そっと言った。
「……ごめん。ピース、よくわからなくて」
「ほんとよ、なんでわかんないのよ。本当にあんたって、それを使うしか出来ないし。ばかみたいだわ……」
 いつもより声に力がないアミーに、ラテュセは戸惑う。するとアミーが続けた。
「もう、やっぱそれ調子狂うわね。さっさとしまって! それにもうあたし行くから。間に合わなくなっちゃう」
「大丈夫なの?」
「……大丈夫に決まってるでしょ!」
 吐き捨てるように言って、アミーは行こうとする。でも、とラテュセは口にするが、それ以上何も言えなかった。彼はアミーがなぜ元気がないのかもわからなければ、なぜ自分が何かを言おうとしているのかもわからない。考えれば考えるほどわからなくなって、いつも何もできないのだ。
 普段はそれでもよかった。アミーはたいてい元気で、こちらが言葉足らずでもさほど気にもしない。だが今ばかりは違った。ラテュセは、ひどくもどかしかった。
「アミー!」
 結局いつも名前を呼ぶことしか出来ないのだ。そうしている間にもアミーは進んでいて、しかし答えるかのようにくるりと振り返った。こちらに向けられたその手は、二本の指の立った形。
 ラテュセは思わずそれに見とれた。彼がやるのとは明らかに違う、なんだか洗練されたような自然で格好良い形だった。そして、やっぱりきらきら輝いて見えた。だから、その形の意味をあまり理解できていなかったはずのラテュセにも、彼女が本当に大丈夫だと伝えるためにしてくれている形なのだということがわかるのだ。
 教えてくれてありがとう、踊り頑張って、無事に帰ってきてまた会いたい。そんな風に返したくて、なのにラテュセはどうすればいいのかわからない。
 あっという間に姿を消してしまったアミーの残滓に向かって手を挙げ、彼はたどたどしく同じ形を作った。なんとも不恰好で、だけど少し嬉しくなった。

***


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